八幡山観音寺

観音寺の創建年代は不詳ながら、権大僧都祐覺が天正18年（1590）に開山したと伝わっています。一方で、建久3年（1192）に鶴岡八幡宮寺から勧請された鶴崎八幡宮（現在の篠原八幡神社）の別当寺を当初から務めていたという記録もあり、それが事実であれば開創時期は鎌倉時代までさかのぼります。
先述の通り、観音寺は江戸時代まで隣接する鶴崎八幡宮（篠原八幡神社）の別当寺を務めていて、併せて杉山神社（現在の岸根杉山神社）も管轄下に置いていました。別当寺とは、神社を管理する寺院のことで、明治維新以前は寺院の住職が神官を兼ねて神前に読経供養することが多くありました。
鶴崎八幡宮は、江戸時代初頭まで鈴木村会下谷にありましたが、寛永8年（1631）に現在の篠原八幡神社が建つ同村表谷へと遷宮し、観音寺の境内に内包されることになりました。また、1667年（寛文7年）には、鈴木村の代官伊奈半十郎が観音寺境内に移設されていた鶴崎八幡宮の社殿を再建し、これを契機に鶴崎八幡宮は若宮八幡宮と改称されました。
江戸時代の観音寺は、『新編武蔵風土記稿』に「本堂五間ニ六間。本尊十一面観音坐像六寸バカリナルヲ安ズ」と記されています。庚申講や寺子屋が催され、地域社会の中核としての役割を担っていました。不動堂の秘仏不動明王は元和4年（1618）に庚申講の本尊として造立されたものです。
明治維新を迎えると観音寺は「神仏分離令」によって二つの神社と境内を区別され、「上地令」によってほとんどの土地を失いました。加えて明治15年（1882）には原因不明の大火によってすべての堂が焼失しました。
廃寺同然となった観音寺ですが、大正時代に第19代住職として晋山した隆超和上（後の川崎大師平間寺43世貫主）が仮本堂と庫裏を再建し、寺院としての体裁を復興しました。
第二次世界大戦中には、すでに川崎大師平間寺貫主となっていた隆超和上が川崎大師の本尊「厄除け弘法大師」ならびに宝物を観音寺に疎開させたことが知られています。平間寺から観音寺にこれらの宝物を移設したのは、奇しくも1945年（昭和20年）4月4日の川崎大空襲前日であったといいます。そのため、平間寺は空襲によって伽藍のほとんどが焼失したましたが、本尊や貴重な宝物は難を逃れることができました。
戦後には隆超和上の弟子の隆侃和上が晋山し、昭和52年（1977）に現在の本堂を再建しました。また、平成9年（1997）には不動堂が、平成25年（2013）には講堂が完成して、観音寺は往時の姿を取り戻しました。